「神官長様、お疲れではありませんか?」
通された部屋に荷物を置きながら、今回の仕事の従者としてついて来た見習い神官が振り返った。
「ええ、私は大丈夫です。貴方こそ疲れてはいませんか?」
異例の若さで神官長に就任した青年は、ライラック色の瞳で優しく微笑んだ。
「俺──っと、私も大丈夫です!」
少年は力いっぱい元気であることを主張する。
「そう。でも今日はもう休ませていただきましょう」
三日を掛けて大神殿から到着して国王への謁見を済ませると、既に日は暮れ掛かっていた。部屋を整えるメイドが灯したのであろう。ランプには既に灯が入っている。
「他の皆にもそう伝えてくれますか?」
青年がくすくすと笑いながらそう言うと、彼は元気な返事を残して飛び出して行った。この若き神官長の役に立てることが嬉しくて仕方がないのである。
教会総本山である大神殿の神官長は、紛うことなき教会の長であり、その地位以上に本人の人柄で以て内外に支持を得ていた。
(謁見は無事に済ませたし、準備は私が心配することではないし……一応明日になったら確認させてもらって……)
神官長が各地の神殿以外を目的地として大神殿を出ることはそう多くない。今回はこの国の第二王子の結婚式の為に呼ばれて来た。王権と神権が分離しているとは言え──否、分離しているからこそ、王家の祭事に関わるのは重要な仕事である。
椅子に掛けながら、彼は頭部を覆う布をはらりと外した。淡い金色の髪が零れる。
(花嫁の名前は──)
それは知った名前だった。ほんの少し言葉を交わしただけだったが。
(あれから十二年か……あの小さかった子が花嫁になるのだから)
流れた年月を思って微笑する。
(十六歳か。あの頃の彼女は、丁度そのくらいの外見をしてたっけ)
痛みと癒しとを同時に感じながら、彼は静かに目を閉じた。
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